あと1か月ほどしたら、87歳にもなるのだが、こんなに長く生きてきても、知らないことは、山ほどあるなあ……とよく思う。考えてみると、それは当然で、読書家なんて言えるほど、本を読むわけではないし、しかも読む本は片寄っているし、作家にしても、好き嫌いがある。
本を読むということは、その人の知識はもちろん、人格形成などにも、大きな影響があると思うので、このようなことを書くのだが、最近はTVでも見たいものがよくあって、世の中には、こんな方がおられたのか、と驚くことがある。その例の一つを書いておこう。
再放送だったが、先日、【福島 智】氏と、【柳沢 桂子】氏の対談があった。柳沢 桂子氏のことは、よく知っていたので、観ようと思ったのだ。柳沢 桂子氏は、現在79歳の生命科学者で、31歳の時、難病になり、48年間、痛みと闘いながらベットの上で研究や、著書を書かれておられる。福島 智氏のことは、まったく存じあげていなかった。ところが、彼は、ヘレンケラーの男性版というか、9歳のとき、視力を失い、16歳のときに、聴力も失ってしまった。そうした環境にありながら、現在は、東大の教授をなさっている54歳のバリヤフリー研究者なのだ。(心のパリやフリーも)
お二人の対談は、見えない聞こえない福島氏に寄り添った介助者が、彼の両手の指6本(親指子指を除く)の上に、点字の形に、自分の指を載せていく方法なのだ。指点字というものだ。点字は、縦に123、2列目に456と、1から6までの点の組み合わせで出来ている。「あ」は、1の点、「き」は、1・2・6の点というようになる。相手が喋る早さと、同じ速度で乗せて行く。これは、点字に慣れた方なら、練習すれば出来るだろう。というのは、私も、13年間、盲学校で、点字を読んだり打ったりしてきたので解る。字の形が、もう頭の中に刷りこまれているので、「の」は即座に2・3・6の点と浮かぶのだ。福島氏は、それを即座に読み取り、ご自分の声で返事をなさる。聴き取れぬような発音ではない。しっかりとしたお声だ。16歳までは、聞こえていたことも、よかったのだろ。
それにしても、そんな現状でありながら、受験勉強をし、博士号をとり、東大の教授になるまでの努力は、健常者でも難しい。いかに頭脳明晰であってもだ。
柳沢氏は、おおくの著書がありなさるが、以前、53万部という売上をされた【生きて死ぬ知恵】という本を出された。般若心経を科学的解釈で美しい現代語に心訳されている。この本も感動した。
柳沢氏は、福島氏と対談なされ、「人間って、どんな環境にあっても、何かをしようと思えば出来るのだ」と。
こんなに素晴らしいお二人の対談でした。
*NHKの達人達のインタビュー「福島智×柳沢啓子」再放送