2012年11月14日水曜日

冬茜の旋律


私と同じシニア演劇塾で勉強している仲間が、最近、亡くなった母上のことを書かれた【冬茜の旋律】という本を上梓なさいました。お名前は、河野佐知子さん。苦労の多かったお母さんへの愛情がそれこそどっしりと詰まったこの本は、長い介護を通して得た佐知子さんの宝物も、私たちにあますことなく感動という形で与えてくださっています。
 
「母のことを本を書きたいので教えてください」と相談をうけたときは、正直、たんに母親の介護の記録を書くのだろうか? 読み物として、モノになるのかしら、書けるのか?と心配したのです。今までに文章らしきものは、あまり書いていらっしゃらない、という印象を受けたものですから。

しかし、書いたものを見せていただき、ちょっとしたアドバイスをしているうちに、ぐんぐんと力をのばしていかれました。そして何よりも、ご自分が骨身を惜しまずにお母さんを介護なさった記録の内容が、ウソでないだけに、読む者に突き刺さってくるのです。文章が立ちあがって迫ってくるのです。読む人を感動させる、というのは、難しいものです。しかし、佐知子さんの書かれたことには、私は、胸を打たれました。

以下は、佐知子さんが書かれた本の前書きです。佐知子さんの気持ちの一端をお読みください。

 
母シマ子は、苦労の多い人だった。激動の昭和を生きたというだけでなく、結婚生活も、波乱万丈だった。娘として、母の苦しみを身にしみて感じとっていた私は、母と同じように悲しみを胸にたたみこんで生きてきた。歳をとるにつれて、状況は厳しさを増し、母は次第に心も体も病んでしまう。だが母は、「これでもか」といわんばかりの苦悩の連続にもかかわらず、生きることへの執念を最後まで失わなかった。病に倒れてからも、まるで天使に生まれ変わったかのように、明るく生き続けようと、賢明に努力した。

そんな母の人生を拾い上げ、生い立ちからを振り返り、晩年の介護を通して母と関わった日々を一冊の本にまとめてみようと思いたったのは、それを書かないことには、自分の気持ちの整理がつかず、私自身が一歩も前に踏み出せないと思ったからにほかならない。

そこまで介護しなくても……そう周りにはあきれられたが、私には母を守らずにはいられなかった。今まで忍耐ばかりを強いられた母を知っていたからこそ、どんなことをしても母の最終章は幸せなものにしたかった。人生の辻褄は、最後には必ず合うようになっていると信じたかったし、意地でもそうしたかった。人生、真面目に生きてきた母の勝ちよ。絶対にそう思いたかった。母の介護は、私の一番やりたいことだったし、母に寄り添った八年八カ月は、私にとってまさに一番自分らしく輝けた時だったかもしれない。そして介護を通して今まで知らなかった母の本質に惜しみなく触れることが出来、私はかけがえのない心の財産を山のようにいただいた。

介護が終わりに近づくにつれ、母のことを書く思いはますます強まった。私の息子、その子(母の子孫)にぜひ読んでほしい。母のことを多くの人に知ってもらいたい。もしかしたら、介護で悩まれている方のお力に少しでもなれたらこんな嬉しいことはない。本を書くことは、読書家だった母への最高の供養にもなるであろうとも思われた。

母との思い出は、今も鮮明によみがえってくる。母の魂や命のエネルギー、それは目には見えないけれど確かに私の中にある。この本を手にとってくださった方々に、母の声にならない声をいくばくかでも届けることができたなら……そんな思いで書いてみた。 佐知子

なお、本の購入をご希望の方は、お世話いただいた下記の原田印刷にお尋ねください。佐知子さんの連絡先は、ここでは控えます。

*出版先・徳島市西大工町4-5 原田印刷株式会社 ☎088-622-2356

2 件のコメント:

  1. いいタイトルですね。前書きもとてもいい文章だと思いました。豊かで細やかな思いが滲んでいて感動しました。

    母親には誰でも格別な思いを持つものですが、それを文章にまとめるのは、とても難しいと思います。いいお子様を持って、お幸せなお母様です。

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    1. 親の世話は、したいと思っても、なかなかできぬものです。子の方のようなお世話は、珍しいと思います。
      シマイければ、全てよし、ということで、とても幸せなお母さんだったと思います。

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