2012年4月9日月曜日

ふるさとの味

私の産まれ故郷は北海道である。12歳まで住んでいた。だから、ちょっとした『北海道美味いもの市』などに出くわすと、懐かしくてその場に吸い寄せられてしまう。
そして、いつもフイルムのコマ切れのような情景で私の頭を通り抜けるものは、何と、カボチャと、とうきび(トウモロコシとは言わなかった)に噛り付いている幼い日の姿だから泣けてくる。

詳しくいうと、秋、黄金色のはち切れそうな実の並ぶプリプリのとうきびや、金太郎の担いでいるような、まさかりで割るほど硬い、まさかりカボチャを、たらふく食べて大きくなった道産子である。

その季節ともなると、蓄えのきくカボチャは、カマスに幾俵も買い込んで、床下の室(むろ)に入れられる。それからは、おやつはもっぱらカボチャと、リヤカーで毎日売りに来るとうきびである。
たかがとうきびやカボチャなのだが、これがどうしてどうして。駄菓子なんかより、ずっと美味しいのだ。日頃、口中でとろけるような、上等なおやつは口にしていなかったせいもあろうが、噛みごたえのある実のプチプチのおいしいとうきび、そして甘くてホロホロのカボチャは、喉を詰まらせるほど美味しかった。

手のひらや足の裏が、カボチャの色素で真っ黄色になるのも、この季節の風物詩のようなものだった。休み時間、学校の校庭などで、友だちと黄色い手のひらを競い合ったのも懐かしい。

……今、私はふっと手が停まった。どうも、この〝思い出の味〟は、現実の味から、少々飛び出していることに気付いたのだ。
証拠もある。北海道物産展で求める、とうきびやカボチャは、昔のそれとは少々異なっている。品質は、改良されて良くこそなれ、悪くなってはいないはずであるが、子どもの頃味わったような味にはかなわない。

考えてみると、「忘れられない美味」などというのは、「感動の味」なんだと思う。子どもの心は、何のかけ引きもなく、感嘆することができる。ケーキとカボチャを比べたりはしない。たかがカボチャであっても、幾十年も忘れられないような美味を、胸中にしみ込ませてしまう。
 
こんなことがあった。旅の途中で、ガイドブックで褒められているラーメン屋に立ち寄ったことがある。一口でいうと、味はいいのだが、店主は、職人気質か何か知らないが、お客の心を無視した態度で、自信満々の傲慢さが鼻を突いていた。美や感動を求めて旅をする者の立ち寄る店ではない、と思った。両者の心の有り様では、感激も喉元で踵を返してしまうのだ。

この頃は飽食・美味の時代である。でも、飢えと無縁の現代は、舌先を喜ばすだけのことはできても、それ以上のことはなかなか難しい。 
そしてまた一方では、お金では買えないものを求めて、パクパクしていることも事実である。殿方等がよくいう、おふくろの味のお惣菜だって、舌鼓を打ちながらも、大地のような母親の愛を懐かしんでいるのではないだろうか。

いろいろと思いを巡らせてみると、私の「ふるさとの味」は、単なるカボチャやとうきびの味ではなさそうだ。何かがしっかと裏打ちされている。それは、心のふるさとや、離れ去ったものへの望郷の思い、そして、カボチャと私を紡いだ、子ども時代の郷愁と憧れのようなものでもあるようだ。

味は昔と違っても、今でも私はトウモロコシとかぼちゃは大好きだ。とくに私のトウモロコシ好きは、知れ渡っていて、収穫の季節ともなると、あちこちから集まってきて、三度の主食はトウモロコシになり、冷蔵庫の中は、トウモロコシの冷凍でいっぱいになる。

美味いもの市や、お正月、お祭りなどの屋台で焼いているトウモロコシもいいものだ。出かけた家族はよく買ってきてくれる。孫までもが「お婆ちゃん、お土産」といってお小遣いで買ってくる。とても幸せな気分で美味しく頂いている。



2 件のコメント:

  1. ごまめさん、お幸せですね。家族にしっかりと思いが受け止められている。

    故郷を恋う気持ちは故郷を離れて初めて分かるもので、私も阪神に住む娘の家で生活した13年間、徳島が懐かしくて懐かしくて、とうとう、故郷にリゾートマンションを購入して暇を見つけては出掛けていました。

    古巣の家は蜘蛛の巣だらけで住めませんでしたから・・どうしてあんなに古巣がよかったのか、今ではその時の気持ちがわかりません。

    徳島の南瓜も昔のはとても美味しかったです。今でもやっぱり好きです。

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    1. 古里は遠きにありて思うもの……が幸せか、

      古里を離れることなく一生を送る……が幸せか、

      離れてはじめて古里への感謝や懐かしさを味わうのもいいですし……
      人それぞれですから、何ともいえませんよね。
      どちらになっても、古里が愛せるのは、幸せなことです。

      余談ですが、コメントを書いてくださっていたお六さま、夫さんが手術なさいましたが、成功。命拾いなさったそうです。よかったよかった。

      それと、グーグルのアカウントがおかしくなって、しばらくコメントの投稿ができないとか。夫さんに直していただくまで……。

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