2012年5月23日水曜日

ある老夫婦


昨日は、『賞味期限』の話から、夫婦の話になりましたが、その続きのような話になるかもしれませんが、一方では、こんな夫婦もいることをご紹介しておきたいと思います。

以前、旅の途中、海の見える小高い公園で、車を止めました。十メートルほど先に、車が一台止まっていて、その横で、白髪の男性が、ぎこちなく体操をしている後ろ姿が目に入りました。他に人気がなかったので、車から降りるのをためらって、しばらく見ていますと、その男性は、一人ではありませんでした。だれかと重なって手を動かしていたのです。私は、車を降りて何気なく近寄ってみました。

一瞬目を疑ったのですが、それは、認知症らしい妻に、自分の手を添えて、体操をさせている姿でした。

「さあ次は手をあげて、ぶふらぶらぶらーー。上手上手。さ、次は手を十回叩くよ。はい、ぽんぽんぽん・・・」
女性は、されるがままに体を動かしています。

私は、ツーンと胸が突き上げられて、目の前が霞んでしまいました。声が出そうになったものですから、慌てて車に引き返しました。

体操が終わると、男性は妻を抱きかかえるようにして車に乗せました。男性のお顔が、私の目にした限り、とても優しく、たえず笑顔であったことが、更に胸中を熱くしました。

車が去った後も、私は味わった感激を、しばらく胸の中で転がせていました。

賞味期限切れと言われても、ドライフラワーといわれても、女はいつまでも愛と優しさに憧れています。こんな夫婦になれるのなら、私だって今からでも嫁に行きたい気分でした。

後日談……この話を同窓会でのおしゃべりの時にしまして冗談に、「あんなやさしい男はん見たら、今からでも嫁に行きたくなるわ』と言いましたら、『古女さんは、再婚の意思あり』と思われたのか、親切な方が10分くらいして、傍に来て、そっと、ヤモメのある同級生と、お付き合いしては?と、ご親切なお話をいただきました。
「死んだ旦那がすばらしい人だったので、それ以上の男はんがおらんのよ。お付き合いしたくてもできない。ふふふっ」と、煙に巻きましたが、長生きしていますと、面白いことが、多々ありますねえ。(笑)






2 件のコメント:

  1. ご夫婦でここに入居している人は、みんな旦那さんが奥さんの面倒をよく見ておられます。奥さんが旦那さんの面倒を見ている人は今の所ありません。そういう人は入居しないんでしょうね。

    お家で旦那さんが奥さんの介護をするのは大変なんでしょう。ここにいると少なくとも食事の心配はありません。お風呂はヘルパーさんが来ているみたいです。

    それから、ここに入居している人はそんなに怒らないですねえ。噂話ぐらいはしても、怒るという事はないようです。私も今まであまり腹が立つような事には出逢っていません。

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    1. なるほどねえ。よく解ります。奥さんが先に弱ってくると、二人で施設に入らざるをえない方が多いでしょうね。男手では、介護や食事の世話は大変ですものね。

      腹のたつことがないということは、年寄りにはいいことですねえ。皆さんが、まだしっかりなさっているということでもありますね。

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