2012年6月3日日曜日

かつらの話


その1

2年ほど前、白髪を染めた頭の上の部分が、すぐ白く目立つので、掌ほどの小さなかつらを、奨められるままに買った。

家に帰って着用してみると、どうもうまくいかない。頭のてっぺんだけが膨れたようになってしまう。そのまま引き出しの奥にしまい込んでしまった。

一年ほどして、かつらを購入したデパートから、かつらの調子はどうですか?というハガキを頂いた。そしてその下に、(古いかつらを高額下取り中)とあった。かつらは新品同様だ。高額下取りに目が眩んだ。

私はそのかつらを持ってデパートに行った。ワケを話すと店員さんは、これは小さいのでかえっておかしい。せめてこれくらいのものがいいと、やや大きいものを出してきて頭に載せたのは15万円のもの。
そのときは何となく、これならいいかな、と思った。小さいほうの下取りは、3.000円という。元値は6万円。思ったよりかなり安かったが、持ち帰っても仕方ないと思って引き取ってもらった。

私が不器用ということもあってか、持ち帰り頭に載せても、何となく不自然で、着ける気にならなかった。
頭髪がだんだんと細くなって、ふんわり感がなくなってきたので、似合うものなら、帽子のように、気軽に被りたいと思っていたものだから、「あら、似合いますよ」なんて言われたものだから、つい買ってしまつたのだ。現金を持たなくても買物が出来るということは、あまりよくない。こんな下手な買い物をしてしまう。何度もこのような失敗をすると、もうかつらを見るのもイヤになって、引き出しの奥深く突っ込んでしまった。

そしてまた昨日、デパートからの電話である。

一年前に買った『かつら』の調子はいかがですか?サービスの手入れにも一度もいらっしゃらないので、電話を差し上げた、とおっしゃる。

親切な有難い電話だが、もうかつらを買い換えるつもりはないので、はいはいとなま返事だけして切った。そして忘れていた『バカな買い物』をまた思い出すことになり、自分ながらあきれてしまった。

その2

昔……そう、昭和40年代、かつらはかなり流行ったときがあった。髪のセット代りに、かつらを被るのだ。私も買って何度か被っていた。当時1万円ほどのものだった。

私は、勤務先の忘年会を終えて、駅前のビルの入り口あたりで、人波を眺めながら、バスまでの時間をつぶしていた。

そこへ、私の近しい男が、同僚らしき方を5,6人引き連れてビルに向かってやってくるではないか。どうやら、ビルの中にある、料理屋にでも繰り込むらしい。

彼も忘年会。もうかなりオミキが回っているらしく、私のそばまでくると、かの右翼の車がかき鳴らすマーチを口ずさみながら、突進してきた。

私が、「プーッ」と噴出すのと同時だった。
「やあ、奥さん、こんばんは」
そういうなり、私の被っていたかつらを、鷲掴みにして、ぴっぱがしてしまったのだ。

「キャーッ」と言うと同時に、私は男に跳びついて、かつらを奪い取ると、前後も確かめず、頭に載せ、男の足元にうずくまった。

「彼女、今日は忘年会やからって、かつら被ってきたんよ」

何が「被ってきたんよ」だっ! この男、朝、私が味噌汁をよそいながら、
「忘年会だというのに、頭セットに行けなかったわあ。パーマのびてるし……。かつら被っていこか?」
と言ったときは、「うん」とも「すん」とも言はずに、新聞読んでいたヤツなのだ。

「ああ、古女さんの奥さんですか。こんばんは」

次々とご挨拶いただきながら、私は究極の恥ずかしさで、目玉までひっくり返ってしまったのか、まともにお顔が見えなかった。

そのとき、私の耳元で、「うーむ・何たる仕打ち。このカタキ、何が何でもとらずにおくものかっ!」と、かつらめが、私よりも興奮して怒っていたものだから、私も共に仇討ちを約束したのだが、その機会のないままに、月日は流れ、夫に先立たれてしまった。

長い年月、その機がなかったのは、かの恥ずかしさに匹敵するほどの仇討ちが訪れずじまいだったのだ。決して忘れたわけではない。

そのかつら、「意趣返しを見届けるまでは、灰にはなれぬ」とおっしゃるものだから、かくまっているのだが、今となっては、もう、諦めてもらうほかあるまい。
かつら殿には、まだ、事実は語ってないのだが、さぞ、無念がることだろう。

忘れられない思い出である。






4 件のコメント:

  1. ごまめさんのかつらさん、仇討出来ないで残念でしたね。でも、安心して下さい。灰になっても、この世の向こうに、あの世と言うところがあります。そこで見つけたら長年の恨みを思い切り晴らしましょう。あの世で見つからなかったら、あの世の、あの世がありますよ。

    かつらは私も使ったことがあり、今も持っていますが、頭に乗っけると、そこだけが別世界で、かつらがご主人様になってしまいます。テレビでやってるようにはとてもできませんね。箱で眠らせております。

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    1. mimiさんも、かつらを載せたらそこだけ別世界ですか……。ふふふっ。
      わかります。少々風とおしがよくなっても、、別世界より、同じ地域同士がいいですね。(笑)

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  2. ごまめさんのご主人はとても愉快な人だったんですね、思わず笑ってしまいました(失礼しました)。私も薄くなってきていますがドライヤーで何とか工夫しています。かつらはテレビでやっているようにはうまいこといかないんですね、購入するときには気を付けます勉強になりました。

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    1. そうなんですよ。
      お店で試着するのと、家に持ち帰って着けてみるのとでは、かなり違うことを心得ておくべきですね。
      それよりなにより、自然が一番いいのとちがいますかしら。(^^)

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