2012年6月14日木曜日

バナナ


マーケットの果物売り場に、バナナが【特売大安売り】の札つきで並べられている。バナナは安売りでなくても安い。欲しいときには、いつでも買うことができる部類の果物である。

私の子供の頃は、バナナはけっこう口に入れていた。父が夜店のバナナのたたき売りを月に一度くらい買ってきて、家族中が食べた思い出があるし、お客がお土産にバナナをひと房さげてきたりすることもあった。子ども心に「早く帰らないかなあ」と、客の帰りを待ちわびたものだ。

戦中戦後の食糧難時代がやっと終わり、三度の食事が何とか出来るようになると、手のとどく範囲の高級果物といえばバナナだった。

バナナにくらべると、メロンは雲の上。入院でもして、見舞いに頂くと口にできたが、自ら買い求めて口に入れるなどということは、考えてもいなかった。メロンは、とてつもなく高価だったが、当時から、メロンまがいの、金瓜とか、ニューメロンといったものが、畑にごろごろあったので、それでメロンの味を偲んでいた。

バナナといえば、思い出すのが息子を出産したときのこと。骨盤が狭いので、早めに産ませましょう、という医者のことばで、7月29日入院した。ちょうど、30日が、結婚記念日だったものだから、わざわざその日を選んだのだ。医者もそのつもりで陣痛を起こす注射をしてくださった。結婚記念日に生まれてくる、ということになれば、何となく喜びも倍増する気分だった。

ところが、うまくはいかなかった。陣痛は予定通りにはじまったのだが、難産で34時間もかかってしまったのだ。

もう、24時間を過ぎたころからは、私の体力は消耗し、食事も喉が通らない。当然力も抜けてしまう。心配した夫は、病院前の果物屋から、一房の大きなバナナを買い込んできた。それを剥いて私の口に押し付けてくる。声も出ないほどの私はそんなもの食べるどころでない。手ではらいのけると、しかたなく、それを夫が食べる。その繰り返しで、とうとう、何時間かの間に、夫は、バナナ一房を食べてしまったのだ。

やっと死ぬ思いで出産し終えたとき、そばの夫に「バナナ」と言うと、「もうないわ」という返事。思わず笑ってしまった。

そのときの息子も、もうじき、55歳の誕生日を迎えようとしている。


2 件のコメント:

  1. ごまめさんも初産は大変だったんですね。でも優しい旦那様だったんだ。バナナを見ると思い出すでしょう。

    私は田舎に住んでましたし、叩き売りなんて見たこともないし、買ってもらって食べたこともないと思います。そのうちに戦争になってバナナにお目にかかることもなくなりました。まあ、バナナは病人の食べる物だったんでしょう。

    今はバナナが減量食に、なってると言う話も聞きましたが、買って食べようという気持ちにはなれません。

    返信削除
    返信
    1. 私も大変でしたが、産まれてくる子も大変だったのか、仮死状態に近い状態で出てきて、しきりに看護婦さんに叩かれていました。(笑)

      今は、みなさんよくバナナをたべていますね。バナナをぶら下げて置く道具や、バナナ一本をいれて持ち歩けるような、プラスチックのいれものがあったりしますね。我が家では、そのようなものはありませんが。
      私もバナナはあまり買いません。果物は、さっぱりしたものを好んでます。

      削除