2012年6月30日土曜日

指輪あれこれ その1


格別手のきれいな方がいる。手だけ、映画やコマーシャルに出演させるという仕事もあるらしい。そういう方は、手がお金儲けをしてくれるので、手入れをなさっていて、水仕事だけではなく、夜も手袋をはいて寝るなど、気をつけているらしい。


私は、若い時から、格別手が荒れていたり、年寄りのように皺だらけだったものだから、それなりのクリームをつけたりしてきたのだが、一向に綺麗にはならなかった。

美しくない手に、綺麗な指輪をしても、かえって醜い手が目立つだけとと思ったので、指輪は私にはタブーだった。

それに、指輪だけは、思い思われるお人に戴いたものでなければつまらない、と思い込んでいたものだから、自分で指輪を買ったことは一度もなかった。

幸か不幸か、このトシまで、指輪を戴けるような関係の男性は、夫のみだったし、その夫からは、婚約した時も、結婚したときも、指輪は戴いていないのだ。戦後のどさくさ時代はもう過ぎてはいたものの、安い月給しかいただけなかった時代だったし、そんなことはどうでもいい時代でもあったのだ。

それでも、結婚したとなると、まったく欲しくなかったわけではない。安物でいいから、記念に一つ……と思ったこともあるのだが、自分から言い出すほどのことでもなかった。


子どもが生まれて間もない頃だったろうか。夫が出雲へ出張した事がある。

「出雲」と聞いた時、ひょいと、「あそこはメノウの産地ね」と口が滑った。が、別に他意があったわけではない。

しかし、このつぶやきが効いたのだろうか。夫は、珍しく小さな箱に入った指輪を土産に手渡してくれた。


中身は間違いなくメノウの指輪だった。ただ、箱はボール紙なので、高価なものではないのは一目瞭然。出店の先に並んでいたものを手にとって買ったのだろう。それでも私は、にんまりとして押し戴いた。

しかし、どう間違ったのか、私の親指に入れてもくるくる回るほどの大寸である。まさか、自分の指に合わせて買ったわけでもなかろうが、何とも可笑しくて笑いをこらえるのに困ってしまった。どう見ても、メッキものなので、寸を詰めることも出来そうになく、そっと鏡台の引き出しの奥深く仕舞った。


それからしばらくして、夫は当時まだ外国だった沖縄に出張した。メノウが役立たずに終ったことが、気にかかっていたのかもしれない。今度は本物の金の指輪を土産に買ってきてくれた。入れ物からして、メノウとは格段の違いがあった。



……うまくいかぬものだ。金の指輪は、くすり指の節の手前までしか入らない。

「寸は直せるだろう」夫は落ち着いてそう言ってくれた。売り手にそう言われたにちがいない。

一旦は箪笥の小引き出しに収めたものの、何となく夫に悪いような気分で落ち着けない。(ようし、少しムリしてでも入れてみよう)と思った。

再び指輪を取り出した私は、くすり指に、石鹸を塗り、力まかせに押し込んだ。


指輪は、やっと節の真上まで入れることが出来た。でも、それからは、後へも先へも動かなくなってしまったのだ。オマケに、指が紫色にふくれてきたから大変だ。慌てて夫の鼻先に指を突き出して助けを求めたところ、「バカッ!指が落ちてしまうでないかっ」と怒鳴るがはやいか、そばにころがっていた先の尖ったペンチのようなものを拾い上げ、有無を言わさず指の間に突き入れて、指輪を切り落としてしまった。


……やっと傷と痛みの癒えた指に、寸を大きくした指輪がおさまったのは、ひと月もたった後だった。

こんな因縁いわく付きの指輪だが、二年後には、風呂場でちょっと外したすきに、水に流してしまった。


続きがありますが、またの機会に……。只今から、泊りがけの同窓会に出ます。帰ってきても、すぐに出かける会があって、忙しいので、明日はお休みさせていただきます。

2 件のコメント:

  1. 私も買ってもらっていません。昔高野山にお参りに行ったとき、お守りという指輪を二つ買って、エンゲージリングのようにして指していました。主人は、指輪がなかっても、生きていけるという人です。今は、自分で買った指輪も置き忘れて探しまわる歳になりました。

    返信削除
    返信
    1. ふふふっ。ご主人のおっしゃるとおりですよ。

      指輪がなかっても、いきていけますとも。

      削除