2012年6月15日金曜日

堀 文子という画家


掘文子さんという画家がいらっしゃる。1918年生まれ(大正7年)なので、もうかなりのお年寄りだが、多分、療養をつづけながら、創作活動をなさっていらっしゃるに違いない。

私が初めて掘文子の名前を知ったのは、何年か前、NKKの教育TVで【柳沢桂子著 生きて死ぬ知恵】を取り上げて、柳沢さんを取材し、放映されたのを観て、その本を買った時である。その放送は、録画して、それをまた録音したものを私は散歩のおりに何度となく聞いたのだが、その本の挿絵を描かれたのが堀文子氏だった。

堀さんは、独特の世界をもつ日本画家でいらっしゃって、作品そのものも熱狂的なフアンを持っておられるのだが、私はあまり絵のことはよく解らないが、堀さんの生き方にひどく興味をそそられた。

肩書きを求めず、ただ一度の人生を、美にひれ伏し、何者でもない者として送ることを志してきた方である。

日本画家を志された理由をこう書かれている。

【私は、小さい頃から自然に強い関心を持っていて、自然界の営みの神秘、不可思議さを突きとめたいという欲求から、科学者になりたいと夢みていた。ただ当時は女が大学に入って男子と同等に勉学にいそしむということには程遠く、男女の差の壁が大きく立ちはだかっていた。どうして女には、このようなハンデがあるのか、その差別は許せないと思い、差別されない生き方とはなんだろうと考えた末、美の世界である絵にたどり着いた】略

彼女の何冊かのエッセーを読んだが、宝石のような言葉が読む者の胸に流れ込む。
こんな言葉もある。

【秋に樹が葉を落とすのも、学校で教わったわけではないのに、生きていくための戦略をちゃんとやっているのです。無意味な消耗を避けて、冬は葉を落として冬眠しているのです。
どうして人間に「冬眠」という素晴らしい能力を神からいただけなかったのか。行きづまったら、冬眠する。そうすれば、無駄な喧嘩も競争もしなくていい。人間は冬眠出来ないから、永遠に戦い続けている。
医学が進歩すればするほど、便利な生活になればなるほど、人間が生物としての自然を失って、ついには脳が衰えて、いずれ人類は滅びるのではないかと思います。私たちは、自然の生き物であることを忘れて、人間がいちばん偉いと思っているから、おかしくなるのです。】

【刻々と失われていく心身のエネルギーの目減りを防ぐのは、自分自身の力でしかできないことだ。人の助けで埋められるような生易しいものではない】

【老いに逆らわず、私は私の手足で働き、私の頭の回線を使うしか方法はないのだ。過去の功績によりかかり、人を従えたがる老人の甘えを何とか寄せ付けないよう心掛けたいものである】

【私はいつも己と一騎打ちをしています。自分で自分を批判し、蹴り倒しながら生きる。そんな自由が好きなんです】

【身体が衰えてきますと、誰でもが何もできない諦めの老人と思うでしょう。けれども、私は知らなかったことが日に日に増えてきます。いままで「知っている」と思っていたことが、ほんとうは「知らなかった」と。それがだんだんわかってくるのです】

90歳を過ぎた女性の言葉を、一回り若い私は、神妙に受け止めている。

4 件のコメント:

  1. ごまめさんのブログを見ていると大変勉強になります。堀文子さんという方は自分をよく知り、歳をとると共に頭だけで知っていても体で受け止めることにより、こうだったんだと確認できたんでしょうね。年老いて受け止めると言うことは素晴らしいですね人間として完成されているんでしょうね。ごまめさんも、受け止められることはとても素晴らしです!頭が悪く喜怒哀楽の激しい私にはまだまだ修行が足りません、主人には呆けているといわれるが、この年齢だったらこんなもんじゃ、と思いながら過ごしてます。

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    1. kyamiさん、私はこのトシになっても、知らないことばかり。傍に夫がいたら、「呆けた」と言われたり、「アホなやつ」と言われたりしていることと思います。
      堀文子さんのような方は、私のような者にとっては、雲の上の方です。
      こんな方もいらっしゃるのだなあと、思うだけで、元気いただけると思います。(^^)

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  2. 堀文子さんと言う方は知りませんでしたが、文章を拝見して凄く共感しました。立派な方なんですね。

    人間にも冬眠する力があったらどんなにいいだろうと私も思います。人間も自然の1部でしかないととも痛感します。

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    1. mimiさん、冬眠が出来たら、一年の殆ど冬眠して、そのままあの世に行く、という最後もいいですね。(笑)

      私がいつも【憎き雑草めっ】と思っている雑草を、堀文子さんは
      「うとんじられてながら志を曲げず生き続けたけなげさ。踏まれても摘まれても諦めず自力で生き抜いてきた名もなき雑草の姿には、無駄な飾りがない。生きるための最小限の道具だてが、侵し難い気迫となって私の心を打つ」……のだそうです。人間の作りが違います。(;;)

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