2014年1月3日金曜日

運針


「よーい、はじめっ」という先生の号令で、運針競技が始まる。5分間たつと、「はい、止めっ」で針を置く。

こんな競技を、小学校、女学校の家庭科で何度も何度もしたことがある。手ぬぐいのような1mほどの布を縦に二つ折りにした運針用布という布の、端から端まで縫って長さや美しさを競うのだ。

先生は、その長さと、目の大きさ、歪み方などをみて、上手下手を見極めるだけではなく、手の動かし方にもうるさかった。右手と左手は、10センチほど離して持ち、針の頭を中指にはめた指抜きに当て、両手を小刻みに動かせて、指先の感覚で右手を左手に近づけていく。右手の親指と人指し指は、布から放したり付けたり交互に動かして進む。右手が左手のところまで縫ってくると、右手の中にたまった布を右手でさっとしごいてまた続けて縫っていく。上手な人は、リズミカルにきれいに縫っていく。不器用な私のような者は、指が思うように動かず、縫い目も曲がっていく。

最近、ドラマの中で、お裁縫のシーンが何度か出てきて、その手先をみていて思ったのだが、手の動かし方が、まったく私等と違う。というか、動いていない。慣れた手つきで縫っている方は、ほとんどいらっしゃらない。もう、戦後の家庭科では、運針の練習などしないまま、雑巾やパンツといった作品作りをしているらしい。

そんな映像を見て、つい懐かしくなって、こんなことを書いてみたくなったのだ。
今、80代以上の方は、ほとんどの方が浴衣をはじめ、袷の着物くらいは縫った経験があるはずだ。

嫁入りの前に学んでおくことの一つが和裁だった。女学校に行かない方も、高等小学校の2年間で、みっちりと和裁を教えこまれたはずである。といっても、私のように不器用な者は、習っても、なかなかうまくは仕上がらないのだが……。

学校を卒業して教員になったとき、母に、しきりに夜は和裁の稽古をせないかんと言われた。私が、和裁の腕がないことを見抜いていたものだから、嫁に行ったら困ると思ったに違いない。でも、そんな暇がなかった。「働いているのだから、仕立て物は、人様に頼んだらいい」と、言うと「新しい物は頼むことができても、毎年洗い張りして縫い直す物を人には頼んだりしたら笑われる」と言うのだ。

それは本当だった。嫁に来てふた月目だつた。義母が、夫の洗い張りした丹前の布を私に手渡しながら、「この丹前、寒うなるまでに縫っておくように」と言う。浴衣なら縫えるが、綿入れなど、逆立ちしても縫えるはずがない。すぐ和裁の本を買ってきて読んだが、無理と分かった。義母には「縫えない」とは言えないまま、里の母に泣きついた。母は我が子の不出来は親の責任と、縫ってくれた。母は、とても和裁が巧くて、他人さまの着物まで頼まれて仕立てていたので、その出来栄えをみてすぐに義母にばれてしまった。義母は、「まあ、里のお母さんに縫うてもろたんで。よう縫わんのなら、そう言うたらええのに」と、呆れられた。

ありがたいことに、時代は着物離れで、私も夫も、普段は着物を着る生活ではなかったので、着物の洗い張りや仕立て直しはほとんど必要なかった。

こんな不器用な私だが、運針で鍛えられたこともあって、今の若い方たちよりは、マシな針使いが出来る。

私たちは、何の苦労も無く、風呂敷でモノを包むことが出来るのだが、昔、夫がアメリカの青年二人を家に遊びに連れて来た時、お土産に風呂敷を差し上げて使い方を教えてあげたところ、どうしても、風呂敷を結ぶことができなかった。彼等は、これはマフラーとして使うと諦めていたのを思い出した。(笑)

指先のことなどは、習うより慣れろで、小さいときからの習慣というのは有難い。

最近の子供達は、小さい時からあまり指先を使ったり、ヒゴノカミで鉛筆を削ったりしていない。代りにゲームや携帯で指を動かしてはいるのだが、はたして、紐結びといったことなど、上手く出来るのだろうか?と思ったりするのだが……。

2 件のコメント:

  1. 運針!!久しく忘れていた言葉です。懐かしい。今の方は恐らくご存知ないでしょうが、私たちの世代では必須の技術でした。

    これが上手に出来るか出来ないかで、仕上がりまでの時間も、見栄えも大違い。一生懸命に練習しましたね。アー、なのに、いつの間にか不要な技術になってしまって、喜べばいいのか嘆くべきなのか・・・時代の変遷は止めようもありません。

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    1. ここまで針を使わなくなるとは思っていなかったですね。
      針箱を引っ張り出すのは、ボタンがとれた時くらい。それもめったにありません。ボタンがとれるまで着ないことが多いです。(笑)

      最近は、長じゅばんの半襟も、付け変えずに、そのままクリーニングにだすのですね。
      たまにか着ないので、そういうことでいいのですね。
      着物を毎日着ていた時代では、そうはいかないでしょうが。

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