ボタンを掛け違えたシャツを着たまま人前に出ていったり、左右違った靴下を履いて出たりの失敗は、数え切れない。
他人さまは、気易い方でもちょっと言いにくいのか、あまり注意されたことはない。後で気が付いて恥ずかしく思うことが多い。
その点、家族の目に留まればすぐに注意してもらえるだろう。
粗忽者に限らず、何かにつけて家族がそれをカバーする、ということはよくあることだ。
夫婦で長短補いあうのは、よくあることで、何となくほほえましい。夫が無口で妻が社交的、とか、男親が短気でよく子を叱る、女親が気長く、子を諭す、なども一例だろう。
しかし、我が家はそう巧くはいかなかった。夫は、私に輪をかけた粗忽者だった。
笑い話になるので書いておこう。と言うものだから、振り向くと、私が夫に言われて買ってきたばかりの【ネズミとり】の薬を口に入れているではないか。
「あんたっ、何食べてるのよっ!」
私の声に驚いた夫が目を丸くして箱の字を読んで洗面所へ走った。
戻ってきた夫は目を三角にして怒鳴った。
「バカもん!こんなもの机の上に置いとくやつがあるかっ! 見てみろ。浅田飴の袋に入っとるでないかっ!」
たしかに浅田飴の宣伝を印刷した小袋に入っていたが、箱はれっきとしたネズミの絵のついた「ネズミとり」なのだ。
私はしこたま叱られながら、床にうずくまって笑い転げたのである。
私は、ネズミと聞いただけでもゾッとするほどのネズミ嫌いなのだ。朝、夫が「物置きにネズミがいるらしいなあ」と言ったので、「ええっ。いやだっ。物置きに入れないっ!」と叫んでしまった。
「ネズミとりの薬を買っとけ。撒いとったら退治できるわ」そう言われて買った【ネズミとり】である。夫に撒いてもらおうと居間のテーブルの上に置いたのだ。
ネズミより先に夫が毒見するとは……。
これはほんとに想定外の出来事であった。
夫には悪いが思い出すだけで背中がびびる。
粗忽者も、ここまでくれば、たいしたもの。免許状がもらえそうだ。
あの世でヘンなもの、口にしておらねばいいが……。
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