2012年7月3日火曜日

指輪あれこれ その2


以前はよく職場に生協の方が、昼休みや放課後、商売においでになったものだ。

夫の勤務先では、よく女の先生たちが宝石などを買われていたらしい。

あるとき、同僚の女の方たちに「奥さんに指輪をどう?」と勧められたらしく、わざわざ電話で私の指のサイズを聞かれた。指輪を買ったことのない私が、指の寸などが分かるはずもなく、いいかげんに「普通の寸よ」なんて言ったと思う。


その日、夫は少しゆるめのサイズの、アメジストの指輪を持ち帰ってくれた。着けてみたら、石が動くことはあっても、すり抜けることはなかったので、直すことはなく、丁重にお礼を言った。


でも、その後がよくない。夫はまるで子どものように、「今月は小遣いが足りない」と何度も言うものだから、仕方なく、指輪の代金ほどのお金をカンパ。
そういうわけなので、夫に買って戴いた?という感覚は、まことに薄い。


そのアメジストも、たまには着けてみたが、元々綺麗な指輪の似合う手ではないこともあって、ほとんど着けていなかった。夫は、私から、指輪代金をまきあげていても、自分が買ってやったと思っているので、「気に入らんのか」なんて言ったりするものだから、「ヨソイキ用よ」と、言っていた。今もその指輪は、ケースに入ってはいるのだが、もう指の節が膨れたのか、着けられない。

どうも私は、指輪にはご縁がない。あまり、指輪に興味も関心もなかったというのが本心でもある。


ところが、夫を亡くしてひと月もたったころ、急に結婚指輪が欲しくなった。それは、夫婦復活願望とでも言うのか、自分でもこの哀れな思い付きに泣いてしまったが、買わずにはおれなかった。「指輪買ってね。あなたのお金で指輪買ってね」と念仏のようにつぶやきながら、隣り町の宝石店へ走った。


いい年の女が、兎のような赤い目で、ガラスケースを必死で覗き込んで、結婚指輪をあれこれする図は、少しおかしかったかもしれない。

後にも先にも、買いたくて買った指輪は、何の変哲もない、結婚指輪一つきりである。

これはしばらく指にはめていたが、指にぶつぶつができたり、痒くなったりしたものだから、外してしまった。

  


目的は違うのだが、私はもう一つ、指輪を買っている。勤務先に売りに来た方が、ダイヤの指輪を勧めてくれた。興味がないというと、お子さんのために、買っておけという。中学生の息子しかいないというと、息子のお嫁さんにという。ダイヤは必ず値上がりするので、損はない、婚約のときには、倍の値打ちになっている、ケースもそれ用のものに代えて、きちんとしたものにする、というのだ。立て爪のオーソドックスな型を選んでおけば、間違いないとおっしゃる。そばにいた方が、「私も息子の嫁にと、一昨年買ったものが、今年婚約したときには、10万円も値上がりしていた」とおっしゃる。


欲に目がくらんだのがいけなかった。当時373000円のダイヤを買ったのはいいが、いざ、その時がきてみると、20万円に値下がりしていた。大損害である。おまけに息子は、「指輪は自分で買うから、いらない。お母さんがしたらいい」というのだ。


ダイヤは、3度ほど私の正装時に使った記憶がある。初めて用いたのは、息子の結婚式だ。何となく、嫁の指輪を借りたようなヘンな気分だし、ダイヤが目立つと手も目立つ。


今も保証書と共にケースの中には、値札とともに指輪が眠っている。むろん、立て爪の型はもう古いもので流行らないらしい。そんな指輪を加工するには、かなりのお金がかかるし、第一、私は使わないから加工など無駄である。


でも、たまにケースを開くと、懐かしい思い出が蘇ってきて、一人にんまりと笑ってしまう。20回の月賦で買ったこと、中学生の息子に見せたら、いかにも迷惑そうな顔をされたこと、婚約時に出して見せたら拒否されたことなどなどが、生々しく思い出されて楽しめる。373000円のおかげである。
安くはないが、ものは考えよう。病気をしたと思えば安いものだ。


もうこれからは、指輪の時代ではないようだ。指10本の爪に、色々と細工を凝らしたアートを見ての思いであるが……。

2 件のコメント:

  1. ほんわかとしたご夫婦のお話。いいですねえ。指輪はともかく温かいご家庭が目に浮かびます。

    私は指輪は貰った事はありませんが、安物は買っていくつか持っていました。でも、普段使っていませんので、邪魔でつい抜いてしまいます。旅行をすれば帽子と指輪はしょっちゅうホテルに忘れて来ました。

    少々あったのはみんな孫に渡して今は儀式用のパールが一つあるだけです。それももう、不要かなあ、と思っています。

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    1. 手の綺麗な方がいますが、そんな方は、とても指輪が似合いますね。、羨ましいと思います。
      としをとっても、それなりに綺麗です。

      装身具は、着け慣れることも大切かもしれませんね。
      普段、していない者は、旅先で忘れたり、どこかに紛失したりしてしまいますから。

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