2012年7月22日日曜日

成せばなる……


もう10年も前になるだろうか。私は、医師の島健二先生をお訪ねしたことがある。

今も、時々新聞で、糖尿病のことなどに関してお名前が出てくることがあるので、お元気でお仕事を続けられていらっしゃることを知るのだが、島先生の業績は、ちょっと並みではなかった。


成せば成る、成さねば成らぬ何事も……という諺など、もはや関係ないのが老人、とお考えの方に、ぜひこの方を知っていただきたいと思うのだ。


以下は、当時、私がある小冊子に書かせていただいた文章である。


徳島大学名誉教授、島健二先生といえば、知る人ぞ知る、糖尿病の世界的な権威者でいらっしゃるが、その先生、今は若いときから興味があった考古学を学ぶ、学生さんなのだ。退職後一年間の受験勉強の末、六十六歳というお年で、徳島大学総合科学部に堂々と合格なさっている。


先生は、「老人はそんなにダメなものではありません。その気になれば、誰にでも出来るということを、自分で証明したまでです」とおっしゃる。自分をモルモットにして、実験的に(といっても、学ぶことが目的ではじめられたのだが)受験勉強や入学、新しいことへの挑戦をやっていらっしゃるわけだ。さすがは学者さんだ、転んでもただでは起きない、などと言うと失礼だが、脱帽である。

人には色々なタイプ、経歴があって、誰でもが定年後、先生の真似が出来るわけではないだろう。ただ、加齢とともに誰しも老化していくという常識は、その気になれば何とかなることを実証してくださった。

特に強調されたのは、そうした意欲、気力の源は、運動のおかげ、体力だ、と。まさに、「健全なる精神は健全なる身体に宿る」の図式である。


以前から運動はかなりなさっていらしたのだろうが、六十歳ごろから、毎日五キロのジョギングをなさり、すでに何度もフルマラソン大会に出場して完走されているツワモノ。体力に不足はない。だからこそ、あれも、これもの夢がかきたてられるのだろう。


あれもこれも……とは、ただ受験だけではないからで、例えば、ピアノの鍵盤など、触ったこともないのに、「退官記念パーティでは、自分でショパンの『別れの曲』を弾きたい」という、素的な夢を抱かれる。そしてレッスンをはじめられ、見事に念願を達成された。

六十歳すぎてからでも、やればショパンが弾けるのだ。うーむ。


それだけではない。退官後は、市内の病院で名誉院長を務められての受験勉強であり、弱られたご母堂の介護も、充分になされ、悔いの無いお見送りをなさったし、入学後は著書「定年教授は新入生」という大変面白い本も上梓されている。


現在先生は、教官時代に部長をなさっていた水泳部の部員なのだ。卒業コンペも、部員として参加され、若い方に囲まれて一段とお顔が輝いている。

「皆さんも、ご自身で実証していただければと思います。自分の能力を試しながら生きるのも、以外に楽しいものですよ」


走って、診て、学んで、泳いで、弾いて、という大学院生も予定にあるとか。(予定通り実践なさいました)


老後は暗夜航路ときめこむことはない。
「退職も楽し、加齢もまた楽し」という人生を歩む先生を見習って、新しいことや夢の扉を叩いてみたいものである。扉を叩くだけでは進めない。扉のキーは、体力で作るしかなさそうだ。


こんな先生の真似はなかなかできないけれど、学べるものはたくさんあるはず。
素敵な先生である。

4 件のコメント:

  1. 私なりの、成せば成るを体験しました。53歳に運転免許取得、退職後64歳から音痴矯正のためカラオケ教室へ(継続中)、プライドも何もあったものではありません。今は発声や音階がとれるようになり先生もホッとしているようです。ごまめさん、しょうもない事ですが、私には大変だったのです。最近は筋トレ、体力アップの教室に通い始めました。今頃遅いですよね(笑)島先生に笑われますね・・・

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    1. そうなんですか。53歳で運転免許をとりにいく方は少ないでしょうね。よかったですよ。車にのりだしたら、その有難味がわかりますものね。

      ま、カラオケは、いつからでも習えそうですけど。(笑)

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  2. 凄い方ですね。感心して声もありません。でもね、年を取れば老化するのは自然なことで、恥でもなんでもないと思いますよ。みんなが島先生のようになったら若い方の立つ瀬がありません。

    kyamiさんも凄い。稀に見る方です。真似は出来ません。

    ただ、むやみに健康自慢をする方、沢山いらっしゃいますが、私はあまり好きではありません。健康も意欲も、持って生まれた面があるかと思いますので、そうでない方(私を含めて
    )の事も思いやっていただけたら嬉しいと思います。

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    1. そうですとも。老化は恥ではありませんよねえ。でも、島先生のような方は、周りの方たちにちょっとばかり元気をあたえてくれますよね。「よし、わいもやったろか」と思う人がひとりでもいたら、いいんだけど。

      私が55歳(退職の年)のとき、島先生に出会っていても、やはり、雲の上の人のように思うだけだつたろうなあ……。

      健康自慢ねえ……。年とったら、自慢したくなるものよ。さしといたらいいのとちがう? 自慢話聞いて、奮起する人もいるでしょうから。(笑)

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