2012年7月29日日曜日

聞き上手に話し上手



昔こんなことがありました。
退職後の57歳のときでした。

旅の途中、富良野の小さな旅館のフロントで、新聞を読んでいたら、話ずきのご主人につかまりました。
ジュースなど出してくれたりするものですから、こちらもついつい腰を落ちつけてお付き合いしていましたら、「奥さん、学校の先生でしょう」と、ずばり当てられました。

もう足を洗って二年が過ぎるというのに、今だに先生面をぶらさげているのかと、正直いって、参ったなあ‥‥と思ったのですが、ご主人の言われるには、「先生とか看護婦さんは、聞き上手なのですぐ分かる」と言うのです。
それを聞いて、さすがは人間相手の商売、目のつけどころが面白い‥‥と、感心してしまいました。

自分では、特別聞き上手とは思っていませんが、話し上手と聞き上手の二つのどちらかにきめろ、と言われれば、聞き上手と言わざるを得ません。
まあ、聞き上手といったところで、単に喋ることが苦手なだけで、自然に聞き手に回っている、というだけのことなのですが、『聞き上手』などと言われると、さすがの私も、面映ゆくなります。



そういえば、ある方の随筆を読んでいましたら、銀座のホステスさんの中には、元看護婦さんという人が、かなりいるということが書かれていました。病院と銀座のバーとは、似ても似つかぬもののように思っていたのですが、「聞き上手」といった特技があるとすれば、分からぬこともありません。病人もバーのお客も、話を聞いてもらいたいのは同じようなものでしょう。上手な聞き手になれることが、腕利きのホステスさんの大事な条件であることも頷けます。



話はもどりますが、旅館のご主人の言われるには、商売がら、十人中、八人まではその人の仕事を当てるそうです。また、一夜の泊りであっても、人柄から育ちまで想像がつくというのですからたいしたものです。

 

そのご主人が、こんなことを言いました

「私もね、こんな小さな旅館やってるけど、気苦労あるのよ。何が辛いかったって、客のないときほど辛いことはないね。ほんと辛いよ。半値でもいいからさ、誰か泊まってくれないかと思って外なんか出てさ、落ち着いていられないよ。本当いったら、こんな旅館止めて小料理屋したいんだけどね。奥さんみたいなこぎれいな婆さん雇ってね。その方がずっと気楽だと思うよ」


私は思わず笑ってしまいました。(こぎれいな婆さんときなすったか。とうとう婆さんの仲間に入れられてしまったか‥‥)ということもあったのですが、それよりも、ホステスの素養など、かけらもない私を雇ったら、来る客も来なくなるだろうことがおかしかったのです。ご主人の言う「人を見る目」なるものも、その打率は口程でなし‥‥かもしれません。

それにしても、いざとなれば、この婆さん、こぎれいにして小料理屋のスタンドに立って立てなくもないかもね‥‥。ま、銀座は無理として、富良野ぐらいの田舎町ならさ‥‥。なんてにやにやしながら富良野を立ち去ったのでありました。

さて、『三つ子の魂百まで』とかいいますが、私は小さい時から、何人かの遊びのグループの中で、いつも引っ込みがちに、皆のおしゃべりを聞いていた感じがします。
そんな性格を、祖母はよく、「この子はシャンとせん子やなあ」といっていましたが、自分では、けっこう「シャンとしてる」と、内心反発していたのを憶えています。
聞き上手に話し上手、どちらが人生巧く渡っていくのかわかりませんが、「こちらがいい」と言われても、持って生まれたものは、おいそれと裏返すことはできません。死ぬまで抱えていくように思います。ま、例外はあるでしょうが……。















4 件のコメント:

  1. 先生って、なんかすぐ分かりますね。喫茶店に入ってお茶を飲んでいる時、入ってこられた、4,5人のグループ、あ、先生だな、と思っていたら、案の定「何とか先生」と話し始めました。当たるんですよ。感じが主婦とは違うんでしょうね。

    聞き上手な方って人生の達人が多いですね。喋り上手な方はお付き合いしていて疲れる方が多いです。

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    1. 先生、先生と呼び合うのは、私は好きではありませんが、よくやっていますね。退職してからでも、先生と言いあっているのです。(笑)

      先生の雰囲気というのも、あまりほめたものではありませんよね。
      でも、注意されてどうこうなるものでもないので困ります。

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  2. 私は医療職についていましたが、患者さんが聞きたいこと、うったえたいことを、聞き出してあげることが大切です。私は口下手で苦労しました、専門職のことですから病気のことを勉強しておかないと聞き出せませんからね。患者さんが言ったことを、よく把握して聞いてあげるのが必要となってきますから・・・話を切り上げるのも聞き上手の内に入るんでしょうね。

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    1. 病人は不安の塊りでしょうから、大変ですよね。
      イライラしている患者さん、忙しすぎる看護師さん、順調によくなっていく患者さんばかりじゃありませんものね。

      話し上手と、おしゃべりは違うのでしょうが、時間に関係なく、しゃべられるのも、大変な聞き役ですね。(笑)

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