2012年9月14日金曜日

高倉健さん


役者に惚れることは、めったにないのですが、高倉健さんだけは、大好きな役者さんです。先日NHK番組で、高倉健さんのスペシャル番組がありましたが、私の知らなかった一面も写されていて、益々好きになりました。

私は、あまり映画を見ないのですが、高倉健さんの魅力は、どの俳優さんもかなわないと思っています。

早く観に行きたいと思いつつ、行っていなかった彼の映画「あなたへ」を、やっと今日(9月13日)見てきました。すばらしい映画でした。

彼は、20年くらい前に、「あなたに褒められたくて」という随筆集も出しました。実にいい本でした。その中の『ウサギの御守り』という散文詩をここに転写します。彼の性格がようく分かると思います。

 

『ウサギの御守り』

  人が人を傷つけるとき、

  自分が一番大切に想う人を、いや、むしろ

  とっても大切な人をこそ、

  深く傷つけてきたような気がする。

  この人はかけがえのない人なんだ、

  もうこんな人には二度とは会えないぞ

  と思うような人に限って、深く傷つけるんですねえ。

  傷つけたことで自分も傷ついてしまう。

  そしていつのころからか、本当にいい人、のめり込んで

  いきそうな人、本当に大事だと思う人からは、できるだけ

  遠ざかって、

  キラキラしている思いだけを

  ずっと持っていたいと考えるようになってますね。

  卑怯なんですかねぇ。

  くっつかなければ、別れることはない。

  全然その人に会うこともできない、電話すらできなくても、

  自分の胸の想いというのは、

  全くなにかタイムカプセルにでも入ったように

  変わらないんですよね。

人にはそれぞれ、いろいろな、しがらみとか事情とかあって。

そのときには自分はこうですと言えない

というのありますよね。

何年かたったとき、

今なら言えるんだけどと思うこともあるんですが、

時の流れが早すぎて、

向こうはもう切り替えて違うパートナーを

探しているとかですね……難しいですね、世の中。

男と女の話を語る資格は、僕にはありませんが、

でも女性を想わない訳ではないんです。

うまくいかなかったことが、

みんないやな思い出かというとそうでもなくて、

うまくいってない、いや、いかなかったんだけど、

ちょっとした瞬間、昔よく聴いた曲とか、

立ち止まった景色とか、

目をつぶって思い出すと

ジンとしてくることがあるんです。

 

そしてこれからお話しするそのウサギの御守りは、

ある人からのお土産でした。

その人が海外へ出たとき、

空港の売店で買ってきたものだという。

この御守りをその人がぼくだけに

買ってくれたものなのか、

それとも何本も買って、そのうちの一本を

ぼくにくれたものなのか、ぼくは知らない。

でもぼくにとって、

それはただの御守りにはどうしても思いたくなかった。

いつも身近なところに置いておきたい

と思っていつも使うカバンに取り付けた。

どんな丈夫な毛皮でも毛が抜ける。

それがたまらなく勿体なくて、考えたあげく、

御守りをすっぽり包むカバーを皮革屋さんに頼んで

作ってもらった。

何をやっているのか、めめしいことをして、

と自分自身がおかしくも思った。

でもそのときはただの一本の毛も

その人の気持ちを減らすような気がして惜しかった。

そのウサギの女性と

なんとかまたなりたいなんて思って、

その御守りを持ち歩いてるわけではないんです。

ええ、かけらもないんですよ、そんな気持ち。

でもあのときのあれをもらったときの、ぼくの想いは、

ぼくにとっては

宝石のようにキラキラしているということです。

アメリカ・ヨーロッパ・南極・北極・アラスカ・アフリカ

五カ国、辺境の国々への数十回を超す旅で乗った

飛行機の離着陸する瞬間などは、

無意識のうちに、その御守りを握りしめたりして、

ずいぶん一緒に旅をしました。

そんなに大切にしていたものなのに、

1990年の7月、

映画祭で中国へ行ったとき、失くしてしまった。

自然に取れて落ちてしまったのか、

誰かが持っていったのか、

あんなものを盗る人はいないはずだから、

落としたに違いない、

懸賞金をつけるから捜してください、などと

同行の人たちに冗談めかして頼んだが、

ついに出てこなかった。

 

そういうことなんですね。

自分でもどうにもできない心。

……人を想うということは。

 

「愛するということは、

その人と自分の人生をいとおしく想い、

大切にしていくことだと思います」

『幸福の黄色いハンカチ』の北海道ロケ中に、ぼくが、

山田洋二監督に、愛するということはどういうことで

しょうかと、その質問に対する答でした。

 

4 件のコメント:

  1. 本当にいい詩ですね。柔らかい絹で心が包まれたみたいです。優しくなれます。私もそんなお守りを持てたらどんなにいいだろうか、と思います。

    80余年生きて来たのにそんな人には出会えなかった。夫との関係はもっと生々しいものでしたしね。

    返信削除
    返信
    1. 私もそんな御守りが欲しい……、いや、そんな御守りになりたいですね。

      健さんは、私と同年ですが、スクリーンでは、トシを感じさせません。役者魂というか……。昔から、体型もかわらず、ますます渋味のでた、いい役者になっています。6年ぶりの映画撮影だったそうです。
      もっと、多くの作品にでてくださればいいのに、もう、自分のなっとくのいくものしか出ないそうですから、今度は、いつお目にかかれるか分かりません。

      削除
  2. 「あなたに褒められたくて」私も持っています。テレビ番組の中で北野たけしさんの「もう誰も健さんに嫌われるようなことは言えなくなってる。そういう点では孤独を感じる。」という発言が印象に残っています。私生活を隠すという点では、渥美清さんと共通してますね。渥美さんは、どんなに親しい人も家に招かなかったそうですから。二人とも、もう少しザックバランなら楽だろうにと思っていたんではないかな。男はつらいよ

    返信削除
    返信
    1. 高倉健さんは、やはり孤独が似合いますね。孤独は、人間の本来の姿ですから。産まれててくるのも、死んでいくのも独りです。

      トラさんにしても、健さんにしても、有名になればなるほど、私生活は大変ですね。やはり、仕事を大切にしている役者さんなので、私生活と仕事を切り離すことは賢明な生き方のように思います。

      削除