2013年10月20日日曜日

盲導犬


盲導犬の出てくるビデオをみた。最近、盲導犬をあまり見かけなくなった。TVでたまに見ることがあるのだが、盲導犬で忘れられない思い出がある。

私は、13年間、盲学校に勤務していたのだが、その折、仙台での研究会に出席したことがある。前日は、会場からひと駅離れたところのホテルに泊っていた。ホテルには、研究会に出られる何人かの先生方が泊られていた。

翌朝、案内の先生が、駅まで誘導してくださり、電車を降りてからも、会場である学校まで、歩いて誘導してくださった。その仲間の中に、一人の盲人の先生が、盲導犬と一緒に歩かれていた。

会場は幾つかの部会に分かれていたが、私はその盲導犬の先生とご一緒した。隣の席に座られている。

ワンちゃんは、クンとも言わず、朝から夕方まで、主の足元に座ったきり身動き一つしなかった。

主以外の者は、盲導犬には話しかけないのが礼儀?なので、昼休みも、ワンちゃんの頭を撫でたりは出来ない。犬の気が散るといけないのだ。

よく躾られていると感心しながら「先生、盲導犬って随分賢くて辛抱強いですねえ。じっとしていても、眠ったりはしないのですね」と尋ねると、「そうですね。自分の任務を心得ているというか。でも、一旦仕事を終えて、ハーネス(帯)を外しますと、普通の犬に戻って走ったり、遊んだりしますよ」とおっしゃったので、私も内心ほっとした。いつもいつも緊張ばかりではワンちゃんはたまらないだろう。

一日目の会が終わって、再びホテルに帰るときがきた。もう、案内の先生はいなかった。6人程の者が、帰りかけて、ひとりの先生が、「だれか、道を憶えてるかい? わしはついてきただけで、道憶えてないぞ」と言うと、盲導犬の先生が、「心配ありません。犬が案内してくれるでしょう」とおっしゃった。

その通りだ。またまた感心してしまった。おまけに、ある喫茶店の前で、犬はぴたりと止まったのだ。「あ、私がいつも帰りに珈琲を飲んで帰るものですから、気をきかして止まりましたわ」と笑っておられた。

何とまあ賢いワンちゃんであることか! こんな忠犬、聞いたことない、と益々可愛いくて、頭をなでてやりたかったが、何もできぬまま、無事ホテルまで案内していただいた。

盲人の方にとっては、一心同体の盲導犬だ。ワンちゃんが失敗すれば、命の危険さえ起こりうる。こんな信頼関係は、人間同士であっても、なかなか難しい。

盲導犬の育成は、限られていて、盲人すべての方が手に出来るわけではない。かなり高価であるし、主の方も、何日かかけて、訓練を受けねばならない。そのため、務めておられる方の中には、そういうことが難しく、手に入らぬ方もある。

でも、盲人の方のカンはとても鋭く、東京駅や大阪駅のような人ごみの中、白杖を突かれて、点字ブロックをたよりに、通勤されているのを見かける。走りよって、「どうぞ」と肩を貸したい気持ちになるのだが、私も田舎者。そんなことは出来っこない。役にはたてない。

盲導犬は、きっと、主のお役にたっている、という幸せ感で満足にちがいない。もし、街中で盲導犬に会ったら、心の中で【頑張れ!ワンちゃん】と、声援をと思っている。

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