2012年3月5日月曜日

呼び名

童謡のCDをかけながら、車を運転しているとき、助手席に 座っていた女性が、「この歌、今は通じないわね」と笑う。『村の渡しの船頭さんは、今年六十のおじいさん』の歌だ。六十では、おじいさんには合格しないということである。よぼよぼのお爺さんでも、一生懸命に、ぎっちらぎっちらぎっちらこーーと、お船をこぐときは、元気いっぱいだぞ。みんなのお手本だぞ、という歌は、『今年八十の』とでも直さなくちゃ……ということである。

あるとき、10人ほどのグループ写真をとっているのを見ていたら、カメラを持った人が、70歳は過ぎていると思われる男性に、「おじいちゃん、もっと右に寄って」と言った。頭がちょっと禿げていたので言ってしまったのだろうが、そのときの男性は、一瞬、形相が変わられた。六十でも、七十でも、今どきの人は、爺婆呼ばわりされると、目の色が変る。要注意である。

こんなこともある。ある女性がプンプン怒っている。「そばに寄ってきた店員が、『お婆ちゃん、これ美味しいよ』だって。買おうと思ってたけど、何も買わずに出た。ほんとに失礼なヤツだわ」
ちなみに、その女性は85歳。「そんなにハラたてることないじゃないの」と、思うのだが、その真剣な顔は、まるでバカにでもされたと思っているようだった。

どこから見ても『いいおばさん』が、「おばさん」と呼ばれて不機嫌になった方もいる。日本語はちょっとしたことで、違う顔になってしまうことがあるようだ。難しい。名前が分かっておれば、名を呼ぶのだが、分からないときは、何と呼んだらいいのか迷うことがある。

去年の夏、汽車に飛び乗って汗を拭いた。後ろから、「あねはん、あねはん」という声。「あねはんとは懐かしいことばだなあ」と思っているとき、肩を叩かれた。振り向くと、「あねはん、ハンカチ落としたでよ」と、言ってくれた。
好々爺といった感じの方が、にっこりと笑っている。あねはんとは、私のことだった。私は慌ててにこにこと好々婆になってお礼を言った。

2 件のコメント:

  1. 一昨日、犬を散歩させていたら、「おねえさん、賢そうな犬やナア」と、明らかに私より10~15歳くらい若い男性に声を掛けられました。
     内心、ウッシッシッシッと思いながら、さりげなく「ほんまに賢いんでよ」と答えましたが、きっと、頬が緩んでいたことでしょう。オバハンでもオバアサンでもなくおねえさんだなんて・・・、ね。

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    1. お六さんの緩んだお顔が目に浮かびます。
      今度、その男性にお会いしたら、「おにいちゃん」って、言ってあげるといいわね。

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