2012年3月24日土曜日

車の運転-その2

「免許取ります、取ります」と言いふらしながら運転の実習に入ると、まあ驚いた。想像以上に面白いのだ。
当時のセンセは、随分と厳しかったのか、「自動車学校のセンセは、イヤラシイ、イジワル」というのが定評だったので、そんなにも怖いのかと思っていたのだが、そんなことはなかった。拍子抜けだった。

不器用な私に、「あんた、車の運転初めてで? 無免で乗っていたんと違うで?」と言われた。えっ? とんでもない。車を一寸たりとも動かしたことはない。どうも私は初めから、肩の力を抜いていたらしい。不思議だった。
家に帰って夫に言うと、「アホか。煽てられただけや。煽てないと木に登らんヤツと、叱らな木に登らんヤツとあるけんな。このおばはんは、煽てたら木に登るヤツと思われただけや。ええ気になるなよ」と、叱られた。

やっと全ての教科、実習を終えて、あとは検定試験を待つばかりとなったのが6月末だった。しかし、検定試験は勤務を休まねば受けられないので、夏休みまで待つことにした。当時の学校教員は、年休というのを、殆どとれなかった。

検定までの間、ちょこちょこと自動車学校に出向き、余分に車に乗せてもらうことにした。夫がそうしろという。お金はかかるが、腕が落ちて不合格にでもなれば面倒だと。
センセに、「あんた、早く試験受けたらええのに……。ここのセンセにでもなるつもりで?」なんて冷やかされたりしたが、それでも、練習しておくのに多すぎることはないと思って何度か通っていた。

夏休みに入ってすぐに試験を受け、お蔭で合格。免許証が手に入るまでの待ち遠しかったこと。
夫は、「機械に弱いものは、新車がいい。でないと、途中故障でもしたら大変だ」と新車を勧める。自分はいつもおんぼろ車ばかりに乗っているので、故障もよくあったのだろう。乗り換えるのを楽しみにしているふうでもあった。
初心の私には、新車はもったいないと、中古の車を用意して待った。あちこち擦る可能性は十分ある。

816日、念願の免許証が手に入った。その嬉しさは、まだ忘れていない。その日は近くをあちこち乗りまわし、次の日、学校は休み中だったが、朝の通勤時間を計るべく、勤務先の学校まで車を走らせてみた。大丈夫だ。二学期からの通勤はこれで大丈夫。心配していたのは、以前に免許をとった若い方が、初めて学校まで乗ってきて、職員室に入るなり、「怖かった――。市内の運転は怖いわあ。帰りはどうしよう。帰れない。どうしよー」と、泣き出しそうに叫んでいたからだ。
怖いことはなーんもなかった。十分に練習したお蔭だろう。が、時間は思ったよりかかりそうだ。余裕をもって家をでなくてはいけないことが分かった。

お酒を飲んだら車を置いてタクシーで帰ってくる夫に、「お迎えに行ってあげる」と言ったら、「かんべんしてくれ。まだ命が惜しいわ」などと言う。私の腕前を信じてはくれない。

9月に入って通勤がはじまった。ちょうど免許を手にして1カ月たったころ、日曜出勤があり、翌日の月曜日が休日となった。
朝、夫を送り出してから、わくわくしながら家を出る。
目的地は、屋島の頂上。いつも、平坦な道ばかりなので、くねくねとした山道を走ってみたかったのだ。こんなこと、夫に言ったら絶対に許してはもらえないので、コッソリ行くしかない。国道の広い道を通りながら、香川に入り、屋島の頂上に行き着いた。道路上にある表示の通り走っていただけだ。とても快適なドライブで、気持ちのよかったこと。ああ、世界が広がったーと、思った。
今と違って、屋島はとても賑わっていた。頂上で、美味しそうな香りにひかれて、屋島名物のイイダコを買って帰った。

夕食のとき、イイダコをそっと出した。そのときの会話。
夫「これは旨い。どこの店で買うたんや?」
私「……あ、近くのマーケットよ」
夫「あしたも買うといてくれるか?」
私「……えっ。それはぁ……。くっくっくっくっ」
夫「?どうした? 何がおかしいんや?」
私「そのイイダコ、屋島で買ったんよ。私、屋島まで、行ってこれたんよ。すごいやろ?」
夫「??? どこの屋島や」
私「そりゃあ香川県の屋島よ」
夫「………ドアホー。 アホタレガー。死んでしまうぞー」
と、大きな声で怒鳴りながら、怖い怖い顔で、私を睨みつけていた。

私(まあ、死ぬ死ぬとよういうなあ。そんなに簡単に死にゃぁせんですよ)
叱られながら、背中を大きく波打たせて、笑いを堪えるのに、必死でありました。おわり。








6 件のコメント:

  1. 好きこそ物の上手なれといいますが、やっぱり、自分で進んで始めることは、上達も早いし成功しますね。古女さんにはきっと運転に適性があるんですよ。
     私は余り乗り気でなかったのに、廻りに勧められて教習所に行ったものですから、柵にぶつけたりして大変でした。
     口車に乗るのは得意(?)なのですが。

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    1. あらあら、教習所の中で、柵にぶつけたの? それは、センセが悪いわねえ。ぶつける前にブレーキ踏んでくれなくっちゃねえ。

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  2. ごまめさんは世の中に稀なお人ですよ。友達で免許を持っている人は何人かいますが、息子に言われて返上したり、他人は絶対載せるな、と厳命されていたり、男の人でさえそうなんですから、女は猶更。

    今の所、近い年齢の人で当てにできる人はありません。当てにできるのは娘か孫、これも、仕事してるので、日中は駄目、歩いてはいけない。移動では苦労しています。

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    1. 車は、乗っていたら多分かなりの年まで乗れるはずですよ。あまり乗らない方は、早めに止めています。
      私は、毎日孫の送迎してましたからね。人を載せたら、慎重になりますから、心配ありません。mimiさん、近かったらいつでもアッシーいたしますのに。(^^)

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  3. 古女さん素晴らしいですね、私は53歳で運転免許取りました。ご主人のおっしゃるとうり教習所でたくさん乗っていると免許取ってからは事故をしないからお金を使わないといいますね、正解です。私なんかお金を使わず免許取れたと喜んでましたがかすり傷だらけで修理費にたくさんいりました。ごまめさんのような歳まで乗りたいですね.....

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    1. kyamiさん。決心なさって53歳で免許取得なさったのでしょうね。よかったわね。これからも、大きな事故さえしなかったら、80歳すぎても大丈夫。ルンルン運転なさってください。世界がますます広がりますからね。(^^)

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